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東京地方裁判所 昭和45年(ワ)1599号 判決 1971年11月30日

原告

西田哲郎

被告

中田薬品株式会社

ほか一名

主文

被告らは連帯して、原告に対し金三七三万七五七七円およびこれに対する昭和四五年三月五日以降支払い済みに至るまで年五分の割合による金員の支払いをせよ。

原告の被告らに対するその余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを二分し、その一を原告の、その余を被告らの、各負担とする。

この判決は、原告勝訴の部分に限り、かりに執行することができる。

事実

第一請求の趣旨

(一)  被告らは連帯して原告に対し金一一七五万二〇〇〇円および、うち金七八四万円に対する昭和四五年三月五日以降、うち金一五七万三〇〇〇円に対する昭和四六年二月五日以降、うち金二三四万円に対する同年一〇月一二日以降、各支払い済みに至るまで年五分の割合による金員の支払いをせよ。

(二)  訴訟費用は被告らの負担とする。

との判決および仮執行の宣言を求める。

第二請求の趣旨に対する答弁

(一)  原告の請求を棄却する。

(二)  訴訟費用は原告の負担とする。

との判決を求める。

第三請求の原因

一  (事故の発生)

原告は、次の交通事故によつて傷害を受けた。

(一)  発生時 昭和四三年二月一五日午後一時三〇分頃

(二)  発生地 東京都八王子市明神町一二番地先

(三)  加害車 普通貸物自動車

運転者 被告島部

(四)  被害車 普通乗用自動車

運転者 原告

(五)  態様 追突(加害車が被害車に追突した。)

(六)  原告の傷害の部位程度は次のとおりである。

(部位) 頸椎鞭打ち損傷、後頭部脳挫傷

(治療経過) 43・2・15~同26 多摩総合病院通院

43・2・28~同4・1 工藤整形外科入院

43・4・2~同10・6 同病院通院

43・10・7~同11・19 同病院入院

43・11・20~46・8・17 同病院通院

(七)  原告は、右の如き治療を受けるも、頭痛、背部の圧痛強く、疲れ易く、記億力減退を残しており、昭和四三年一二月一三日現在これは自賠法施行令別表等級の八級に該当するにいたつたが、その後の治療により昭和四六年八月一二日現在で同の一二級一二号に相当するにいたつた。

二  (責任原因)

被告らは、それぞれ次の理由により、本件事故により生じた原告の損害を賠償する責任がある。

(一)  被告中田薬品は、加害車を所有し自己のために運行の用に供していたものであるから、自賠法三条による責任。

(二)  被告島部は、事故発生につき、次のような過失があつたから、不法行為者として民法七〇九条の責任。

即ち、被告島部は、自動車運転手としては常に前方を注視し、交差点で信号待ちしている車がある時は、その後ろに安全に停止すべき義務があり、特に当時降雪のため路面が滑り易くなつていたのであるから予め減速して走行すべき義務があるのに、これを怠り、原告車を発見しながら減速せずそのため、停止措置をとるのが遅れ、またハンドル操作を誤り、スリツプし、原告車の後部に加害者を追突させたものである。

三  (損害)

(一)  治療費等

(1) 治療費残 金二七万二〇〇〇円

原告は、被告らから昭和四四年八月までの治療費の填補を受けたが、さらに、同年九月一日から昭和四五年一二月三〇日までの治療費として金二七万二〇〇〇円の支出を余儀なくされた。

(2) 通院雑費 金四〇万五〇〇〇円

原告は通院期間中、交通費および雑費として一カ月当り金一万五〇〇〇円の割合による金員の支出を余儀なくされた。

(二)  家政婦料 金四九万五〇〇〇円

原告の妻は精神的打撃から一時家出したため、原告は子守兼留守番として訴外伊東てつ子を昭和四三年二月一六日から昭和四四年六月まで雇傭せざるを得ず、そのため金四九万五〇〇〇円の支出をした。

(三)  休業損害 金八七〇万円

原告は、事故当時バーを経営していたが、右治療に伴い、次のような休業を余儀なくされ金八七〇万円の損害を蒙つた。

(休業期間) 昭和四三年二月一五日から昭和四六年九月末まで四三・五月間

(事故時の月収) 月実益金二〇万円

(四)  慰藉料 金二七一万円

原告の本件傷害による精神的損害を慰藉すべき額は、前記の諸事情および次のような諸事情に鑑み金二七一万円が相当である。

原告は約一三年前からバーを経営し、その経営状態も良好で、昭和四四年四月頃には市内商店街に三階建ビルを建てる予定でその資金目途もついていたところ、本件事故によりこれら希望は一瞬にして消え、また原告の妻は精神的打撃のため家出し、その後の家庭生活も円満を欠き、毎日を悶々と過している有様である。

(五)  損害の填補

原告は被告中田薬品から損害の内金として既に金八三万円の支払いを受けているので、これを右損害から控除する。

四  (結論)

よつて、被告らに対し、原告は金一一七五万二〇〇〇円およびうち金七八五万円に対する訴状送達の日の翌日である昭和四五年三月五日以降、うち金一五七万二〇〇〇円に対する昭和四六年二月五日以降、うち金二三四万円に対する同年一〇月一二日以降、各支払い済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

第四被告らの請求原因に対する認否

第一項中、(一)ないし(五)の事実は認める。(六)、(七)の事実中、原告が本件事故により傷害を負つたことは認めるが、部位程度は不知。

第二項中、被告中田薬品が運行供用者であることは認めるが、被告島部に過失があることは否認し、被告中田薬品に責任があることは争う。

第三項の事実中、(五)の事実は認めるが、その余の事実は不知。

第五証拠関係〔略〕

理由

一  (事故の態様と責任の帰属)

原告主張請求の原因第一項(一)ないし(五)の事実は当事者間に争いない。

そこで本件事故態様について検討するに、〔証拠略〕によれば、被告島部は、本件現場にさしかかつた際、前方交差点に信号待ちのため停車している原告車を発見したが、降雪中に拘らず、漫然進行したため、停止措置が遅れ、そのうえハンドル操作を誤り、加害車をスリツプさせ、原告車左後部に追突させたことが認められ、右認定を覆えすに足りる証拠はない。

右認定事実によると、加害車を運転していた被告島部は、本件事故につき、自動車運転手として遵守すべき、降雪時にはスリツプし易いのであるから、予め減速して進行し、先行車に続いて停止すべき時は、早めに制動をかける等して事故の発生を未然に防止すべき注意義務を怠り、漫然進行し、制動措置をとるのが遅れ、さらにそのうえハンドル操作を誤つた過失を犯し、そのため本件事故を惹起しているのであるから、本件事故につき、不法行為者として損害賠償責任を負わなくてはならない。

また加害車を所有し、これを自己のために運行の用に供し、運行供用者の地位にあることを争わない被告中田薬品は、運転手たる被告島部に前記のとおり過失が認められる以上、免責される余地なく、本件事故につき運行供用者として損害賠償責任を、被告島部と不真正に連帯して負わなくてはならない。

二  (損害)

(一)  (事故と傷害の関係)

原告が本件事故により、いかなる傷害を受け、その回復のため、いかなる治療を必要とする事態となつたかにつき検討する。

原告が本件事故のため、傷害を受けたことは当事者間に争いなく次に〔証拠略〕をあわせると、次のような事実が認められる。

(1)  原告は本件受傷後、すぐ多摩総合病院で診療を受け、さらに知合いの紋島病院の紹介で日野市南平所在の工藤整形外科を訪れ、昭和四三年四月二七日以後同病院で診療を受けるに至つた。

(2)  原告は、当初から頭痛、悪心、頸部強直感強く、同病院により安静が必要と診断され、レントゲン検査の結果も頸椎の並び方に異常があり、昭和四三年二月二八日から同年四月一日まで入院して治療を受け、その後退院して通院しながら治療を受けたが症状に変化なく、同年一〇月七日から同年一一月一九日まで再入院し、その後昭和四六年二月二日まで同病院において通院加療を受けた。そして、その間の通院実日数は昭和四四年九月末頃までに約二〇〇回、その後が約六六回であつた。

(3)  その間、原告は数回にわたり、右病院の紹介で日本医科歯科大病院の整形外科、脳外科の診療を受けたほか、調布市上石原所在の青木病院において、数回脳波検査を受けたところ、左後頭部、ついで両側後頭部に徐波が出現し、自覚的にも視力低下、悪心等の訴えがあつたため、頭蓋内血腫の疑もあり、慈恵医大病院脳神経外科の診断を受けるに至つた。しかし、同病院での検査により、その疑いはなく、外傷による頸部症候群と神経症的であると診断された。脳波の方は、昭和四五年七月には大体きれいになつたと石山病院で診断された。

(4)  原告は昭和四四年五月頃までは、タクシーで通院していたが、それ以降は、自分で自己の車を運転して通院するに至つたが、昭和四五年一月当時でも頭痛、頸部痛、右手のしびれ感は著しく、原告が仕事に就くようになつたのは昭和四六年一月に入つてからであり、しかもそれも週一回、二、三時間に限つてであつた。

(5)  そして、昭和四六年八月一二日当時の原告の症状は、頸椎の運動制限が軽度あり、頭痛と背部の圧痛は著しく、また疲れ易さと記銘力の減退を訴える程度となり、他覚的所見はなくなり、症状固定したものと診断された。

以上の事実が認められ、右認定を覆えすに足りる証拠はない。

右認定事実によると、原告の本件により受けた傷害は、昭和四六年二月二日をもつてその外科的療法を終り、その後は心理的療法と、そしてなによりも原告本人の社会復帰への馴化により、その労働能力回復が期待できる段階に至つていることが認められ、かつ右認定の傷害部位、診療経過、現存症状そして後記認定の原告の社会的地位、年令、その有する技能に鑑みると、原告は前記時点で自賠法施行令二条別表一四級九号に該当する後遺症状を有するに至つたものの、その労働能力喪失の割合は、昭和四四年五月までは一〇〇%、同年六月から昭和四六年二月までは六〇%、その後は一〇%とみるのが妥当である。

(二)  (治療費等)

(1)  治療費 金二三万七六〇〇円

〔証拠略〕によれば原告は昭和四四年九月一四日以降昭和四五年一二月三一日までの工藤整形外科における治療費として金二三万七六〇〇円の支出を要するにいたつたことが認められ、右認定に反する証拠はない。

原告は、右のほか青木病院等の治療費として金三万七四〇〇円を支払つたと主張するが、これを認めることのできる証拠はない。

(2)  交通費 金一七万三二〇〇円

〔証拠略〕によれば、原告は工藤整形外科等への通院に際し、昭和四四年五月まではタクシーを利用し、それ以後は自ら自己の自動車を運転して通院したことが認められ、右認定を覆えすに足りる証拠はないところ、当裁判所に顕著な原告の住居地と工藤形外科の所在地との距離関係および他の交通機関の存在、前認定の通院実日数および治療経過に鑑みると、原告の通院に要した交通費および雑費は、昭和四四年五月までは一回当り金一〇〇〇円、それ以降は一回当り金二〇〇円に限つて認めるのが相当であるから、次のとおり算定される。

一五〇×一〇〇〇円+一一六×二〇〇=一七三、二〇〇

原告は、右認定額以上の支出をした旨主張するが、右認定を超える部分は本件事故と相当の因果関係にあるとは認められない。

(三)  (家政婦料) 認められない。

〔証拠略〕によれば、原告は家事に従事していた妻と、三才の幼児を養つていたが、妻は原告の入院期間等の看病疲れや、バー経営の煩わしさのためノイローゼとなり、子供を置きざりにして家出してしまつたため、原告は子供の養育と留守番の必要のため、訴外伊藤てつ子を雇い、月当り金三万円の支出をしたこと、妻が帰宅したのは昭和四四年三月末であつたが、その後もしばらく同女を雇つていたことが認められ、右認定に反する証拠はないが、妻が家出することは通常予想されるところではないから、本件損害は本件事故と相当因果関係あるとは認め難く、また被告らがこれを予見したことを認めることのできる証拠もない。

(四)  (休業損害) 金二八五万六七七七円

〔証拠略〕によれば、原告は昭和三二年七月頃から、ハモ子の繁華街においてスタンドバー「マリモ」を経営し、ホステス二、三人を使用し、月当り少なくとも金一〇万円の純益をあげていたところ、本件受傷のため昭和四六年一月まで仕事に就かず、人に頼んで経営をして貰つたり、妻が経営にあたつたりしたが、業績は良くなく、昭和四四年三月に一たん廃業したこと、その後再び同年五月から再び開店し、妻が主となり経営しているがその利益が出るにはいたつていないことが認められ、右認定を覆えすに足りる証拠はない。

そして、前認定の労働能力喪失の割合によると、昭和四六年九月末までの原告の休業損の昭和四五年三月四日現在の現価を計算すると、次のとおりと算定される。

100,000×15.5+100,000×9×0.6+100,000×0.6×11.6858+100,000×0.1×(18.2487-11.6858)=2,856,777

( ) 11,6858は月別法定利率による12月の単利現価総額指数18.2487は同19月の指数。

(五)  (慰藉料) 金一三〇万円

前記認定の事件事故の発生事情、治療状況、後遺症状のほか妻が看病疲れ等からノイローゼとなり家出し、原告が余計な出費を余儀なくされたことの諸事情を総合すると、本件事故により原告が蒙つた精神的損害は、原告に対しては金一三〇万円をもつて慰藉するのが相当と評定する。

三  (損害の填補)

ところで、原告が被告中田薬品から本件事故による損害に関し、既に金八三万円の支払を受けたことは当事者間に争いがないから、これを原告の右損害に充当すると、原告において被告らに連帯して支払いを求め得るのは金三七三万七五七七円である。

五  (結論)

そうすると、原告は金三七三万七五七七円およびこれに対する一件記録上訴状送達の翌日であること明らかな昭和四五年三月五日より支払済み迄年五分の割合による民法所定遅延損害金の連帯しての支払を求めうるので、原告の本訴各請求を右限度で認容し、その余は理由なく失当として棄却することとし、訴訟費用の負担について民訴法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言について同法一九六条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 田中康久)

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